自己資本比率と「早期是正措置」、「早期警戒制度」
「早期是正措置」は、1998年(平成10年)4月に導入された制度である。
この「早期是正措置」は、金融機関の経営の健全性を確保するため、監督当局が客観的な基準である自己資本比率を用い、必要な是正措置命令を迅速かつ適切に発動していくことで、金融機関の経営の早期是正を促していこうとする行政手法である。
これにより、ア)金融機関の経営状況を客観的な指標で捉え、適時に是正措置を講じることにより、金融機関経営の健全性確保と経営破綻の未然防止を図ること、イ)是正措置の発動ルールを明確化することにより、行政の透明性確保にも資すること、ウ)結果として、金融機関が破綻した場合の破綻処理コストの抑制につながることなどが期待されている。
早期是正措置の発動は、いわゆる業務改善命令、業務停止命令(銀行法第26条第1項等)の1形態として、自己資本の状況によって必要と認めるときに発動するものと規定されている(銀行法第26条第2項)。
早期是正措置の発動基準となる「自己資本の充実の状況」については、国際的にも認められた「自己資本比率」の基準が用いられる。
早期是正措置の措置区分は、自己資本比率の状況に応じて定められている。当初は第1区分から第3区分までの3段階であったが、1998年(平成10年)10月に成立した早期健全化法において、金融再生委員会が同法に基づき施策を講じるにあたって、早期是正措置との効果的な連携を確保すべきものとされたことを受けて見直しが行われ、現在は4段階となっている(表6)。
また、1998年(平成10年)12月の金融システム改革法の施行に伴い、早期是正措置の発動基準について、国際基準、国内基準に関らず、連結ベース及び銀行単体ベースそれぞれの自己資本比率に基づくこととなった。
さらに、2002年(平成14年)10月の「金融再生プログラム」で示された「新しい金融行政の枠組み」にある「早期是正措置の厳格化」と「「早期警戒制度」の活用」は、2002年(平成14年)12月の「事務ガイドライン」の改正により、早期是正措置に係る命令を受けた金融機関の自己資本比率改善までの期間が原則3年以内から原則1年以内へ短縮されるなどの厳格化が行われ、また、早期是正措置の対象とならない金融機関であっても、その健全性の一層の向上を図るため、継続的な経営改善への取組みがなされる必要があり、このため、行政上の予防的・総合的な措置を講じ、金融機関の早め早めの経営改善を促していくものとして「早期警戒制度」が整備された。
「早期警戒制度」では、「収益性」、「安定性」、「資金繰り」の3つの観点から改善が必要と認められる金融機関に関しては、深度あるヒアリングが行われ、必要な場合には、銀行法第24条に基づき、報告を求めることを通じて、着実な改善を促す(改善措置)ものとされている。またこれらの措置に関して、改善計画を確実に実行させる必要があると認められる場合には、銀行法第26条に基づき「業務改善命令」が発出されることとなる。
自己資本の充実の状況に係る区分 | 命 令 | ||
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海外営業拠点を有する銀行及びその子会社等 | 海外営業拠点を有しない銀行及びその子会社等 | ||
非対象区分 | 国際統一基準に係る連結自己資本比率8%以上 | 国内基準に係る連結自己資本比率4%以上 | |
第1区分 | 4%以上8%未満 | 2%以上4%未満 |
経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画(原則として資本に係る措置を含むものとする。)の提出の求め及びその実行の命令 |
第2区分 | 2%以上4%未満 | 1%以上2%未満 |
次の各号に掲げる自己資本の充実に資する措置に係る命令
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第2区分の2 | 0%以上2%未満 | 0%以上1%未満 | 自己資本の充実、大幅な業務の縮小、合併又は銀行業の廃止等の措置のいずれかを選択した上当該選択に係る措置を実施することの命令 |
第3区分 | 0%未満 | 0%未満 | 業務の全部又は一部の停止の命令 |